陽解法と陰解法

逐次計算には限界がある。効果が隣接する要素間で次々に波及して波及して、そして岸までたどり着くかのような解の出し方。岸にたどり着いたことを知るのは岸に接している最後の要素だけだ。その一つ前の要素は岸の存在を知らなかったはずだ。現実には、というか実際には、岸があることの効果が戻って行かなくてはならない。そして岸がそこにあることを、岸に接していない要素にも知らしめるのだ。戻ること。それは反射。反射するからこそ、岸に接していない要素も岸による効果の影響を受けるのである。岸が両側にあったらどうだろう。無限回の反射の結果。それが求めたい答であることがよくある。ならば無限回計算するだろうか。そんなことできるだろうか。

行き過ぎたら戻る効果を考慮すること。逐次計算においてはそれは反射というものを考慮することだったが、始めから岸の存在を前提に全体の計算を進める計算方法がある。最初から行き過ぎない計算方法。岸があるという前提条件を満たしながら最適な解を見つけるやり方。効果が波及して反射するという、自然が本来、一瞬にして辿ったはずの無限の繰り返しの結果のみを、無様な有限回の反射を繰り返すことしかできない逐次計算を嘲笑うかのように、そして自然をも先回りするかのようにその無限回の効果の伝播の結果のみを最初から一発ではじき出す神のようにスマートで、そしてある意味「わざとらしい」計算方法。それが陰解法だ。ただしこのためには象牙の塔のレベル45あたりまでは少なくとも登り、各種の行列計算手法という魔法を極めてくる必要がある。そうやってレベルを上げたMAGEな人々もしくはお金を払って手に入れた貴族たちがこれをぶん回して様々なこの世の現象を解き明かそうとして今日も大学の研究室とか企業の研究所とかで日々研究に勤しんでおられる。

便利なものだ。
しかし、それは自然が一瞬にして辿る経路とは明らかに異なる。無限の繰り返しをするうちに人間が見出さなかった微小な効果の蓄積もあるだろう、それに現象は有限の時間内でおきていることなので、観察した結果といえども、効果の伝播が無限回繰り返されてできた結果では断じてない。例外的にきまぐれに起きる特殊な効果の影響を、陰解法の計算モデルの中に組み込めるだろうか。それもまた決してできないことなのである。

現実の物質世界では要素間の相互作用は必ず隣り合う要素のみを介して伝わる。相互作用の伝播にジャンプはない。まして全体の要素を同時に動かそうなどとするアルゴリズムは、物理現象を模倣し得ない。自然の美しさを再現し得ない。効果は必ず原因側から結果側の方向に流れていくだけだ。我々の宇宙にスターウォーズの世界のフォースは残念だが存在しないのだ。隣の要素から効果は伝わってきて、それを反対側の要素に伝えていくだけだ。そしてそういう過程を経ない物理現象は宇宙広しといえども一つもないのである。ミレニアムファルコン号に乗って銀河の表から裏まで一通り探しまくったとしても決して見つかりなどしないに決まってる。